Return On Learning vol.2
竹内洋二氏(日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 モビリティサービス事業本部長)
“Leaders Build Leaders” は、グローバル・ビジネス・シーンで活躍するCxOレベルのエグゼクティブへのインタビュー企画です。 「未来への架け橋を築くために、グローバルリーダーが実践していること」「リーダーシップ開発を成功に導くインサイト」について、積水フーラー株式会社代表取締役社長を務めるスコット・パーギャンディーさんに語っていただきました。本記事は、2024年7月22日に行われた株式会社セブンシーズによるインタビューをもとに日本語で構成したものです。
私たちが接着剤に求めるものは、確かな信頼です。接着剤を使った次の日、接着したはずのものが剥がれ落ちていたら、どうでしょうか。裏切られた気持ちになりますよね。また、剥がれてしまうのではないか…と不安が払拭できないようでは、信頼とは言えません。接着剤を使ったことを忘れてしまうくらいの安心感を与えられるレベルでなければならないのです。自分自身が果たすべきリーダーとしての役割についても、まさに同じことが言えます。
積水フーラーに着任して以来、一貫して実践しているのは、信頼をベースに、人や組織の想いや夢を「接着」させ、イノベーションや価値創造を促進することです。積水フーラーの社員一人ひとりの幸せやプロとしての誇り、そして、顧客、ベンダー、サプライヤーと共に、未来に向けて挑戦し続ける組織のエネルギーを結集させていくことが、私にとって最も重要な任務だと捉えています。
最近のエピソードですが、18年にわたるお付き合いのある大切なお客様と「イノベーション・ディスカッション」を実施しました。これは、未来志向のディスカッションに徹するという取り組みでしたが、全く前例の無い試みだったので、うまくいく保証はありませんでした。しかし、その成果は、驚くべきものだったのです。ダイナミックな意見交換が、なんと4時間も続きました。それは、未だかつて経験したことのない顧客とのフロー体験でした。
この日、私たちは、ソリューションを提供したわけでもなく、発注をいただいたわけでもありません。 「こんなことはできますか?」「あるいは、こんな方法で試してみることはできますか?」「その先の話をもう少し聞かせてくれますか?」などといった具合に、次から次へと可能性を探る質問が飛び交いました。まさに “CAN YOU?” のオンパレードで、無限の可能性を感じました。この濃密な4時間は、よりよい未来を共に築くためのパートナーシップの深耕と、イノベーションを生み出す磁場づくりの機会であったと確信しています。
どんなポジションや役割においても「生きることは学び続けることである」と考えてきました。多様な文化や価値観に対して敬意を示すと共に、先入観に囚われないオープンなマインドで、好奇心を持って、新たな学びを追求し続けること。これは、私が、積水フーラーの日本のリーダーと日々共有しているグローバル・リーダーの行動指針です。
今春、弊社のリーダーたちに、ドイツに行って、世界屈指のトレーラー・メーカーを訪問してきてもらったのですが、訪問先の製造ラインを視察した時、日本では考えられないアセンブリーの光景を目の当たりにしたのです。日本では、ボルトや、リベット、スクリュー、ファスナーなどの部品を使って組立てる技術が発展していますが、ドイツでは、トラックの製造過程で、高機能の接着剤が驚くほど多用されていたのです。帰国後、彼らがドイツで学んだことを、早速、顧客数社にシェアしたところ、ホットなリアクションがあったと聞いています。日本とドイツのやり方を比較して、どちらが優れているかという議論ではありません。新たな視点や発想をオープンに思い切ってビジネスに持ち込む体験こそがパワフルなのです。彼らの行動は、社内に留まることなく、顧客サイドの好奇心を刺激し、新たなビジネス機会の創出につながるリーダーシップを発揮した良い例だと思います。
私は、日本のビジネス・アプローチに対して、確固たる信頼感を持っています。組織の構造力学を活かし、プロセスを重んじながら成果を出すビジネス習慣は、本当に素晴らしいと思っています。これから、未来に向かって、積水フーラーのビジネスのポテンシャルを、さらに開花させるために、私は、日本のリーダーに対して、前例のないことに挑戦する起業家精神と、自ら計算したリスクをとる勇気を奨励しています。倫理に反したリスクは論外ですが、リスクをとらないという選択からイノベーションはありません。トライしなければ、成長はありません。私たちには、失敗を失敗として終わらせることなく成功の糧にできる能力があると信じています。
リーダーの責務は、一過性ではない持続可能なビジネスの成長です。リーダーとしての成功は、数字に置き換えられる価値だけではなく、社員の幸せにどれだけ貢献できたかで測られるものです。
社員一人ひとりが、チーム、部署、会社のパーパスに共鳴し、成長の実感を感じながら働くことができるように、リーダーとしてできる全てのことを実践すべきだと思います。積水フーラーの浜松工場に行った時、社員の一人に「趣味は何ですか?」と尋ねたところ「ガーデニングです」という答えが返ってきました。「本当ですか!実は私も植物が大好きなんですよ」と立ち話で盛り上がってしまいました。ふと、従業員エントランス付近の植栽に目を向けた時、「このエントランスの緑をもっといい感じにできませんか?」と彼に訊いてみました。すると「もちろんできますよ!!」と弾んだ答えが返ってきました。3週間後、私は工場を訪ねたのですが、その時、彼は、生き生きとした花と緑に囲まれたエントランスを案内してくれました。植え込みの作業を彼が始めた時、通りがかった社員から「何してるの?許可を得てるの?」など質問攻めにあったそうです。その後、作業を続けていると、数名の社員が寄ってきて「手伝えることはありませんか」「水やりを一緒にやりたい」など、自然と仲間が増えていったそうです。このような自然なコラボから生まれた美しいガーデンは、エントランスを通る社員の気持ちを明るくしていると思うのです。
心から好きなことをやっている人の姿は、人を惹きつけ、さらに、その幸せが連鎖していきます。このエピソードは、売上やビジネスKPIとは一見無関係です。幸せを毎日少しづつ積み重ねて、社員が昨日より、今日、今日より明日、幸せに感じ、誇りを持って働ける環境を作ることを、私はこれからも大切にしたいと思っています。
竹内洋二氏(日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 モビリティサービス事業本部長)
早崎達夫氏(積水フーラー株式会社 代表取締役副社長)
Mr. Scott Pergande氏(積水フーラー株式会社 代表取締役社長)
大野 彰子氏(国立教育政策研究所 教育データサイエンスセンター長(併)国際研究・協力部長)
今泉 基氏(ヴァーティカル ジャパン合同会社 カントリー・マネージャー)
久田圭彦氏(積水フーラー株式会社 人事・総務部長)
スンジャ・キム氏(アバナード株式会社)
西村尚己 氏(スペランツァ代表)