Return On Learning vol.2
竹内洋二氏(日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 モビリティサービス事業本部長)
『リーダーシップ・ラウンドテーブル』は、グローバル企業において、情熱と使命感をもって長期にわたり「人材育成」に貢献されているリーダーをゲストにお迎えし、弊社、揚石洋子と秋吉新平を交えた対談形式で、インタビューさせていただくシリーズ企画です。
西村尚己氏をお迎えして、以下の5つのテーマでお話をうかがいました。
西村さんとの出会いは2009年。西村さんがグローバル人材育成のプログラム開発にあたって富士ゼロックス社内でリーダーシップをとっていらした頃でしたね。「Yes, We Can!」というプログラム・タイトルも斬新でした!
セブンシーズの皆さんと私共と深いディスカッションを重ねながら企画を進めていったことを思い出します。共に心血注いで作り上げたプログラムが受講者たちの意識の変容を可能にするなど、大反響を得られたことは感無量でした。実は、私自身、一つの企業の中で仕事をするというキャリアプランは全く無かったのです。もともと、個人として、様々な企業や、大学機関、官公庁の方達と人材育成で携わりながら、それぞれの良いところを共有したり課題解決事例を伝えることで各組織や人材の更なる向上をお手伝いすることを大切にしていましたので。でも、当時の富士ゼロックス総合教育研究所から、グローバル人材育成を活性化するために「変革」を担って欲しいという依頼を受け、「変革」の道筋をつけるまで尽力させていただくお約束をしたのです。
かつては、多くの企業で英語ができる人=グローバル人材と捉え、英語ができることにプライオリティを置いて人材を海外駐在に送り出した時代がありました。そして、残念なことに、現地で上手くやっていくことができず成果を出せずに帰国を余儀なくされることも多かったのです。競争力を高めるためにはそのような状況から一刻も早く脱しなければならなかったわけですが、一般的に組織には「変わること」に対する不安や抵抗感が強くあり、教育を実施しただけでは、グローバル人材育成のための本質的な変革にはつながりませんでした。
英語はコミュニケーションのツールにすぎず、多様な価値観がひしめくグローバル環境で仕事や生活をしていくための意識や心構えをしっかりと築き上げることが重要であり、それに伴うグローバルに通用する適切なコミュニケーション力も養う必要がありました。そのために腹落ちしやすい教育を施し、習得したことを仕事で実践しながら経験を積むための仕組み作りも必要でした。
各事業部のマネジメントにあたる方たち全てにグローバル人材育成の急務と重要性をご理解いただくための説明に回り質問やご要望に応えながら、縦割りになりがちな組織で横断的にグローバル業務を経験していただけるように多大なるご協力をいただいたり、本社や事業部の連携のための施策を含めて、当事者意識を持っていただくための活動に明け暮れたことを思い出します。グローバル人材育成は、決して簡単なことではありません。
チェンジ・エージェントとして、本当に大きなお役目を全うされたんですね。現在は、どのような活動をされていらっしゃるのですか。
20代前半から一貫して「真のグローバル人材をつくること」に使命感を感じています。時代がどんなに変わっても私の変わらない信念です。現在は各企業様のグローバルの課題に合わせたプロジェクトを立ち上げて経営幹部やマネジメント層の人材育成にあたっています。グローバルでのビジネス環境は益々激化し困難性が高まっていますので、その状況に物おじせず、多様性をポジティブに捉えて様々な価値観の人を巻き込みながら前進できるリーダーの育成にフォーカスしています。コンサルティングもしますし、教育研修やコーチングにも取り組みます。人事、人材に関するご相談に対応させていただくこともあります。
西村さんが、グローバル人材育成にコミットするきっかけはどんなことだったのでしょうか。
学生時代、論文のリサーチのためにイギリスに行くことが多かったのですが、そこで、ヨーロッパの様々な国の人たちに加え、中国から国費でいらしている数学者や、南米の方々など、世界中から集まった同世代の多くの人たちとの交流が一つのきっかけとなりました。パーティーやディナーなど人が集まる場で、日本人は発言せず、ニコニコして聞いているだけで存在感がありませんでした。みんなが次々に自国自慢しても「日本も魅力的だよ、絶対遊びに来て!」と発言がないことにも違和感がありましたし残念に思いました。日本は美しい国で誇れることがたくさんありますし、世界中の人に遊びに来て欲しい、と一人で頑張ったりもしました。
ただ、そんな私も「日本人は、怒らないの?」という質問を受け、よく考えてみましたら、怒りや悲しみなどネガティブな感情は自分の中で押し殺していることに気づいたのです。日本人はもっと感情を表に出すべきですしアピールしなければならないと感じました。実際、多くの国の仲間たちから、「どんな感情も表に出すべきだよ、怒りも発信してくれないと我々にはわからないから」と言われたのですね。これは衝撃的でした。それからは、必要以上に感情を押し殺したり我慢することをせずに、ナチュラルに仲間たちと関わるようにしました。結果それまで以上に仲間たちとの良い関係を築くことができました。
その後、バブル末期に渡米し、ニューヨーク州のハイスクールで教師をしました。日本の社会、経済、歴史などを教えていたのですが、日本がどこにあるかを知らない人もたくさんいて、世界で大人気となっていた任天堂がアメリカの会社だと信じている人も少なからずいました。多くの人が忍者やフジヤマは知っていましたが、それではまずいわけで、日本はもっと自分たちのことを積極的に発信しなくてはいけない、と強く感じました。
また、奨学金をいただいてイタリアで画家であり幾何学者である方のお宅に滞在させていただきながら学校に通い、メンタリティの差異のリサーチなどもしていたのですが、ここでの経験も糧になっています。多くの方が日本に興味を持ってくださって様々な質問を投げかけてくださり、それらに答えながら、自国のことをジャンル問わずに深く知り説明できなくてはならないことの大切さを強く感じました。
また、ホームパーティーでの一場面なのですが、客人の中に、アジア、東洋に対する差別的な発言をする方がいたのです。その時、パーティーのホストであるお世話になっていたお宅のご主人が客人に向かって「君は自分たちの無知無教養をさらけだしていないか?」とその差別発言を戒め、中国や日本の歴史の尊さを語ってくれたのです。「知らないということは、なんて悲しいことなのか」というメッセージを受け取りました。世界中の多くの人が潜在的に持っている差別の恐ろしさについて考えさせられるエピソードです。
この体験は、現在の仕事にも役立っていて、海外駐在をする方々に対するコーチングで「決して心折れちゃいけない」と励ましたり、「自分の胸に手を当てて、無意識に差別的なことを考えていないか」と問いかけることを促したりしています。
こうしたグローバル環境での原体験が、西村さんの力強いコミットメントの礎になっているのですね。実体験からくるものは本当にパワフル!西村さんの屋号「Speranza(スペランツァ)」は、イタリア語で「希望」という意味であるとうかがいましたが、まさに、西村さんとの協業を通して、日本のグローバル人材育成の現場で希望の光を見出す経験をご一緒させていただいた気がしています。
日本が直面しているグローバル・リーダー育成における課題は、どんなことでしょうか。
スキルの問題というよりも、グローバルに生き抜くためのマインドづくりが課題だと感じています。
まず、第一の課題として、日本人は、リスクや失敗に対して強い恐れを感じてしまう傾向があります。過剰なまでの完璧主義が、そこかしこに現れる。間違えて恥をかくくらいなら黙っていたほうがまし、という意識が働いてしまい、グローバル会議やビジネスミーティングの場面で、言われっぱなしで終わってしまったり、言いたいことの3割も伝えられずに結論が出てしまうなど悔しい経験談が後を絶ちません。エリートであればあるほど、その傾向は強いです。英語の言い間違えを聞いて気にする外国人なんて誰もいないです。長年の蓄積でそうなっているため、失敗など恐れなくて良いと言っても、今まで100を目指してきたわけですから、意識と行動を変えることは一筋縄ではいきません。
二つ目の課題は、伝統として組織に残っている忖度。いくらオープンに意見を言ってよいと言われても、言えない雰囲気に慣れているので積極的に発言することは至難の業です。
三つ目の課題は、意思決定にデータが活かされていないこと。そもそもデータ化されていないことが多すぎますし、データを出すのにも調整が必要となり、一つのことを決定するのにとにかく時間がかかります。結果、グローバルでは大きな差がついてしまいます。
四つ目の課題は、謙虚になりすぎてしまうこと。謙虚さは、日本では美徳とされていますが、グローバルでは控えめであることは損をしてしまうことになりがちです。
各国のメンバーが、自分の正当性を守り抜こうとディフェンシブな言動をとっている中で、日本人はすぐに謝ってしまう、そんな場面もよくありますね。
これらの課題は、少しづつ小さくなっているかもしれませんが、気付かないうちに染み付いているので、行動変容は容易ではありません。グローバルビジネスという多様な価値観の中で仕事をするためにはどうあるべきか、ということを整理して、改善するべきことをしっかりと認識して、意識的に訓練を積んでいくことが大切ですね。
グローバルに活躍できる人材が足りない。グローバル・リーダーが足りない。どの企業も抱えている共通の課題。これを乗り越えていくために、私たち研修業界に求められていることはどんなことでしょうか。
中には研修会社に研修を丸投げする企業もあるかもしれません。しかし、それは、時間とお金の無駄だと思います。「競争力ある人材育成のために全力で取り組みましょう!」という発注側と発注される側の情熱が一体となり、さらに、大切な時間を割いて参加してくださる受講者たちと三位一体となって、目的に向かって進むこと。そうすることによって、課題となっていることが必ず改善されていきます。成果が出てくるのです。
私は、日本人は、変われると信じています。ポテンシャルが高いと思います。自惚れになるのでは、目立ってはいけない、という思いで内に隠しておくのではなく、秘めている能力を出して欲しい。もっと認知されていかないともったいないです。一人一人が持つ能力を積極的に発信してグローバルで評価さるようになってほしいです。
企業の中で、以前は、中堅以上の方たちが海外駐在にアサインされていましたが、最近では20代からグローバルに活躍する場が与えられるようになってきました。早いうちから経験を積むことは重要です。現在は、オンラインで簡単に世界と繋がることができる時代になりました。やりたい、と思ったことを即チャレンジしたり、可能にできる環境も整っています。ちょっとしたことでも良いので、自分を発信する習慣を作っていただきたいです。世界中の人と意見交換をできる場が色々とありますから、是非積極的にコミュニケーションをとって自分の世界を広げていただきたいです。
西村さんとのパートナーシップには、心から感謝しています。これからのセブンシーズに対して、どんな期待を寄せていただいているのでしょうか。
決められたことをひたすらやればいいという研修会社もあると思いますが、セブンシーズは、人材育成にかける思いを共有し、一緒にやっていける誠意あるパートナーです。長きにわたってグローバル人材育成に取り組んでいらっしゃる知見豊かな揚石社長と出会って「この方がいれば100人力」くらいの気持ちになりました。
これから、研修会社としては、ますます、世界の多様性と時代の変化に対して敏感になって、求められるものは何なのかをしっかりと見極め対応していくことが重要になってくると思います。そういう意味でも、セブンシーズは多様性の縮図。能力、スキル、人種、バックグラウンドも多様なコンサルタントが活躍されていますね。
プロ集団は、往々にして無機質な人が多い中、セブンシーズのコンサルタントの皆さんは人間味あふれるプロ集団。末長くおつきあいしたいと感じるあたたかさがあります。10数年前に初めてご一緒したコンサルタントの方たちが、今でも活躍されている事実からも、人を中心に据えたカルチャーが出来上がっている貴重な会社だと思います。これからも、どんどんパワーアップしていってください!
とても励みになるお言葉ありがとうございます。これからも歩みを止めずに、西村さんと共に、グローバル人材の育成に力を尽くしていきたいと思います。
竹内洋二氏(日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 モビリティサービス事業本部長)
早崎達夫氏(積水フーラー株式会社 代表取締役副社長)
Mr. Scott Pergande氏(積水フーラー株式会社 代表取締役社長)
大野 彰子氏(国立教育政策研究所 教育データサイエンスセンター長(併)国際研究・協力部長)
今泉 基氏(ヴァーティカル ジャパン合同会社 カントリー・マネージャー)
久田圭彦氏(積水フーラー株式会社 人事・総務部長)
スンジャ・キム氏(アバナード株式会社)
西村尚己 氏(スペランツァ代表)