Return On Learning vol.2
竹内洋二氏(日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 モビリティサービス事業本部長)
『リーダーシップ・ラウンドテーブル』は、グローバル企業において、情熱と使命感をもって長期にわたり「人材育成」に貢献されているリーダーをゲストにお迎えし、弊社、揚石洋子と秋吉新平を交えた対談形式で、インタビューさせていただくシリーズ企画です。
スンジャ・キム氏(アバナード株式会社 HR Director)をお迎えして、以下の5つのテーマでお話をうかがいました。
スンジャさんとは、2016年以来、御社Avanade Japanのマネージャー向けプログラムや、トレーニング・ニーズの高い社員の方々を対象とした1:1 Crafted Courseの企画でお世話になっています。セブンシーズのご提案が、御社のニーズにベストフィットしているかをご判断いただくために、スンジャさんには、セブンシーズの開発担当者とのディスカッションに加わっていただきましたね。その中で、スンジャさんからいただくアドバイスやリクエストには、一貫してビジネスに対する感度の高さが感じられました。HRリーダーというよりも、経営の方とお話ししている感覚に近かったです。
もしかしたら、発言がいわゆる人事の人っぽくないのかもしれませんね…。とにかくビジネスと社員のエクスペリエンスで回収できなければ意味がない!くらいの勢いでトレーニングを捉えています。セブンシーズのプログラムへの参加を希望する社員に対しては、実務への展開を前提としたコミットメントを求めています。いわゆる福利厚生的な英語講座ではないと。実践的な英語習得を目的とした場合、往々にして、「できない、まだできない…」の連続で沈んでいってしまう場合もありますが、Avanadeのトレーニングはそうではない。英語を学ぶという意識からスタートするのではなく「仕事を英語でやっている自分をイメージングすること」こそが、成長の近道だと思っています。
おっしゃる通り、英語で仕事をしている自己イメージを描きながらストレッチしていくことは、とても有効だと思います。御社のプログラム担当のコンサルタントは10名程おりますが、全員が大切にしているのは、とにかく、質問をすることなんです。セッションの中で、一対一で向き合い、様々な角度から問いかけていきます。すると、Avanade社員の皆さんは、ご自身が担当されているプロジェクトや、テクノロジーについて、英語で一心に伝えようとしてくださいます。英語が流暢であるとか、そういう表面的なことではない、情熱とプロフェッショナリズムを感じます。この関わりがとてもよく機能しているのではないかと思います。
そうですね。巷にはワンコインで学習できるオンライン英会話もありますし、選択できる学習教材はいくらでもありますから、本来は社員自らが簡単に取り組めるはずなんです(笑)。しかし、セブンシーズのプログラムは、ビジネスのリアリティーを持ち込むことができるようデザインしていただいており、参加者は業務とトレーニングをシームレスに捉えることができると思っています。実務で英語を使うんだったら、まさに、仕事をする自分がピンとくる話を、そのまま英語で伝えられるようにならなければ、意味がないですよね。トレーニングの効果として求められるのは、ビジネス・インパクト に繋がる成長です。社員が実務で扱っているリアルな課題をそのまま、トレーニングの素材として活用してもらえる場を提供いただけるのは、とてもありがたいことですし、それを支えるセブンシーズとの信頼関係は貴重です。
スンジャさんの言葉から、ビジネスとHRを繋ぐグローバルリーダーとしての使命感を感じます。これまでに、どのようなご経験を積まれていらっしゃったのですか。キャリア・ストーリーを教えてください。
私は関西圏で生まれて、異文化が混じった家庭環境で育ちました。のんびり働いていましたが、思いがけず首都圏に出てきて、偶然ソフトウェア開発サポートの仕事に従事しました。私自身は、当時ITの知識や経験は皆無だったのですが、入門書を手渡され「バグフィックスの管理ツールを作って」と言われ、正直、「えっ?」という感じでしたが、とにかく少しずつやってみることにしました。切れ味の鋭いフィードバックを遠慮なく言い合うエンジニア色100%の職場は、私にとって不思議でもあり、刺激的でした。そこで開発されたパッケージソフトの取説には、自分の名前も載せていただき、今でも大切にとってあります。
その後、ソフトウェアを「つくる」経験から、徐々にソフトウェアをつくるために「働く人々と環境」への興味が湧き、金融機関のHRシステムとレポーティングを担当するポジションに応募し入社しました。ここから私のHRのキャリアがスタートしました。まだ、入社したばかりの頃のエピソードですが、ヘッドカウントが非常に重要で緻密さが求められるということがまだ身についていなかったので、人数が合っていない時は、問い合わせがすごかったことを思い出します。当初は、なぜ、そこまで厳密さが求められるのか、わからなかったのですが、フロントサイドの人員数について、一人増減があるだけで、会社の数字が変わる、数億の利益やオペレーションコストのブレになるというビジネスの現実を知りました。特に、証券部門は相当厳しかったです。その金融機関において、人員は生命線であり、常に人が入れ替わりながらもビジネスが成長するためのサポートが求められることを、骨身に染みるくらい徹底的に叩き込まれました。
その後、再び、IT業界に戻ります。マイクロソフトには8年近く在籍したのですが、HRに加えて、ビジネス・プロセス・マネジメントの職務経験を積みました。また、バーチャライゼーションの技術を展開する会社では、数年間、HR Directorとして日本と韓国をサポートしました。そして、2015年、Avanadeと出会うことになるのですが、それまで勤務した組織での経験は、今の仕事をする上で全く無駄にはなっていません。むしろ、HRとしての経験値として統合のしがいがありますね。「コインの表と裏のように、人はアセットでありリソースである」というビジネス感覚を研ぎ澄ませることの重要性を実感することができました。また、これらの環境の共通点でもありますが、ビジネスやテクノロジーの潮流の中で、スピード感をもって多様な国々と共にドライブしていく力は、これからも、ますます求められてくると思います。
HR Leadとして、スンジャさんは、Avanadeの人材と組織の成長をどのように捉えていらっしゃいますか。
Avanadeに入って7年目を迎えました。入社当時の組織規模は、230名。現在では、700名を超えて1,000名が視野に入ってきています。社員数が300名になった時に、ケーキを買ってお祝いをするぐらいの達成感があったのを覚えているのですが、そこからさらにビジネスと共に全力疾走。400名、500名を超えてきた時の感覚は、短距離走のスピードで長距離を駆け抜けていく状況でした。
そんな中で、SIer(システム・インテグレーター)としての立ち位置から、アートの域とも言えるPeople Businessへと進化を遂げようとする組織のエネルギーをHRとして感じています。私は、AvanadeをITというよりも、ショービジネスの会社だと心の中で意識するようにしています。
ショービジネスとは意外ですね。どんな共通点があるのですか?
どのエンジニア、コンサルタントもプロジェクトという舞台でお客様を前にして輝いてほしい、ということなのですが、Avanadeの社員力は、IT技術の腕はもとより、お客様の満足に直結する高度なレベルのコミュニケーションによって日々磨かれています。目の前のお客様をサポートする仕事と同じ感情労働の側面が含まれています。ITというとどこか無機質ですし、感情そのものや身体性のイメージとはあまり結びつかないかもしれませんね。先程「アートの域に近いPeople Business」という言葉を使いましたが、Avanadeの社員力は、プロジェクトというお客様の前で「成功を叶える過程を見せていく」現場で発揮されているからこそ言えることだと思っています。ある意味、とても人間的であり、その成長や変化に伴走するのもHRならではです。
Avanadeは、アクセンチュアとマイクロソフトの合弁会社です。Microsoft Technology Loverであり、アクセンチュアと共に、お客様が描くスケールの大きな理想を、テクノロジーで実現する役割を担っています。最近では、お客様から直接当社へご依頼いただくことも増えてきています。あらゆるステークホルダーのエモーションの波動を読み、お客様の難題やプレッシャーにも対応しながら、テクノロジーでゴールを仕上げるプロフェッショナル集団であることを誇りに思います。
人材のポートフォリオを考えるとき、ITエンジニアは未来へ向かって永遠に進化していくか、思い切った発想と転換でシフトしていくか、あるいはその両方を実践できるようなライフサイクルを意識しています。また、コンサルティングやIT業界のビジネス・プラクティスには、シビアな時間軸が短期的・長期的に入ってきます。例えば、舞台上のバックダンサーと、ソリストは、当然時間単価が違いますよね。役割は違ってもどれだけ一人一人を輝かせられるか、どういうステージでどう価値を高めるのか、チャレンジを積み重ねる経験が社員の成長の実感に繋がっているか、こういったテーマに日々向き合っています。
社員一人ひとりのAvanadeでのエクスペリエンスとビジネスが、ポジティブスパイラルで回っていけること、5合目から8合目、9合目、同じ山を登っても見える景色は違う。そこを意識してリーダーシップを発揮してもらえるように、ビジネス・リーダーに働きかけていくのがHRの仕事だと思っています。
セブンシーズのプログラムに参加された社員の皆さまとは、トレーニング・ニーズ・アナリシスのセッションでお目にかかる機会が何回かありました。今、まさにスンジャさんがお話された「Avanadeとしてのプロ」のリアルなイメージが重なりますね。御社が、市場価値が高い人材を惹きつけ続けていくことができるのはなぜだと思いますか?
Avanadeは、チャンスの多様性や、刺激レベルでいうと、大変魅力的なところであると思います。現場レベルでも、グローバルの扉を開いてチャンスを掴む人も出てきています。
何が最適解なのか、わからない時代に世界が入ってきている今、Avanadeは”Rethink to renew and grow”を掲げています。このコロナ禍のNew Normal にドンピシャに繋がるテーマでもあります。例えば、Avanadeはいち早く、業務スタンダードであった「お客様先常駐」というスタイルをいち早く進化させ、リモートワークで継続的な価値・サービス提供を可能にすることができました。お客様によっては、来社して欲しいという依頼もゼロではありませんでしたが、トップリーダーがかなりのスピード感を持って、リモートワークに移行し、コロナ禍においても社員の安心感とお客様からの信頼基盤、その両方を強化することができました。
コロナ禍への対応という意味で「RETHINK」を掲げ、お客様やパートナー様に対しても影響力を発揮し新しい価値観を共有するという「RENEW, GROW」のフェーズまで、しなやかに変革のプロセスを貫かれていらっしゃるのは素晴らしいですね。
New Normalへのアプローチの中で、個人が企業の中で職務を全うすると同時に、社会の中での多様な役割も担い、そのための意識が広がりを増してくるのではないかと思っています。働く人として最も大切な雇用契約が柔軟さを得てきていることで、社会や世界にある隙間を埋めるような新たな動きも出てくるのではないかと予想しています。そんな中、台本をきっちりとこなす人、期待を上回る成果を出してくるような人だけでなく、期待とは違ったのに何だかいい、すごく新しい、そんなサプライズが求められているような気がします。言ってみれば、人生100年時代、スポットライトの角度が変わり、光が当たるところがぐるっと一回りしてきた、ということかもしれません。
私は、Avanadeの未来を担うリーダー(役職としての狭義のリーダーではなく)の活躍に想いを馳せつつ、社員一人一人が「タレント」として光輝くタイミングをどんなふうに作ってあげられるか、部門マネージャーとともに常にアンテナをはっています。時には、「この人に是非、このようなアサインメントをやってあげられませんか?」と、ビジネス・サイドに投げかけることもあります。市場価値の高い、あるいは磨きがいのある魅力的なタレントを惹きつけ、Avanadeで活躍し続けてもらうためにも、HRとして、キャスティングの支援にも力を尽くしたいと思います。
今、新卒をお迎えすると、英語は既にできます。一方、ビジネスのメイン・レーンにいる人材の多くが英語を使う場から遠い、というよりは高度な日本語で状況を打破する能力への評価が高いと言えます。ですが、自分のお子さんやこれからの子供達には英語教育を与えたいという人は多いのではないでしょうか。ソーシャルメディアを使って若者がどんどん世界と繋がっています。決して危機感を煽るつもりはないのですが、グローバル・カンパニーだから、英語を勉強しようという図式が成立するのは、あと数年くらいの話で。ふと気がついたら、社会の風景が変わっているかもしれません。
「日本は特殊で、日本には特有のビジネス環境がある」を十分に含みながら、今、HRは「大きなテーマをグローバルレベルで一緒に考える、共にやっていく」というモデルに取り組んでいます。価値観のGROWのために、共通のテーマを世界レベルで一緒に考えていく時代に入っているのではないでしょうか。ローカルの力と魅力をここだけで咲かせるのではなく、グローバル・カンパニーとしての価値に繋げて、もう一花が生まれるようにできればいいなと思います。現在も日本のプロジェクトやビジネスを目指して他の国や地域からスキルのある人がそのまま英語で参加してくれていますが、さらに増えていく、あるいは双方向での流動性を目指したいです。
個人レベルの話で言うと、人生の中で仕事が占めるこれまでの価値観が変化していますが、働き方改革の議論よりももっと根源的な自尊心(Self Esteem)がテーマになると思います。どう働くか、だけではなく、一体、自分は何のために何をするのかが問われてきます。自分の骨組みをしっかりと形成して自立するためには、英語は扉を開く鍵にもなります。私は、自らそれを欲しているメンバーに、セブンシーズのプログラムを提供したいと思っています。
セブンシーズは、トレーニング・パートナーと言うよりも、当社の社員が英語で仕事をするためのビジネス・パートナーなんです。Avanade Japanのメンバーが、世界のプロフェッショナル人材と協業しながら顧客満足を次々と実現していく、そんなビジョンをセブンシーズと共有しています。ビジネスの現実感として、毎年力強い達成が続けられていますが、さらなる高みへ直結する一手をプログラムにこめてあります。
HRとしての提供価値が、ビジネス・インパクトと紐づいているということが、スンジャさんのお話しから、リアリティーを持って伝わってきます。私たちも、御社のビジネス・パートナーとしてのご期待にお応えできるように、歩みを続けていきたいと思います。今日は貴重なお話しを、本当にありがとうございました。
竹内洋二氏(日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 モビリティサービス事業本部長)
早崎達夫氏(積水フーラー株式会社 代表取締役副社長)
Mr. Scott Pergande氏(積水フーラー株式会社 代表取締役社長)
大野 彰子氏(国立教育政策研究所 教育データサイエンスセンター長(併)国際研究・協力部長)
今泉 基氏(ヴァーティカル ジャパン合同会社 カントリー・マネージャー)
久田圭彦氏(積水フーラー株式会社 人事・総務部長)
スンジャ・キム氏(アバナード株式会社)
西村尚己 氏(スペランツァ代表)